I’m Not Okay

小説を書いたり、映画を観たり

初めて長編小説を書いて感じたこと

 2020年6月に、新潮社の主催する日本ファンタジーノベル大賞にわたしは応募しました。 4月の中頃に募集をたまたま見かけて、萩尾望都先生が審査員ということで突然応募したくなったためです。 (なお萩尾先生は今年をもって審査員を離れるとのこと。残念!)

日本ファンタジーノベル大賞 | 新潮社

 そしてわたしの結果は、一次選考(504篇→50篇)は通ったものの、二次選考(50篇→11篇)で落ちました。

 終ったことだし次に行こう、と思っていましたが、年末にWebで1人でも読んでくれる人がいたらいいのではとふと思い、エブリスタに断続的にアップしています。

“パピエ・マシン” 古代アレクサンドリア図書館の秘密|ファンタジー小説|沖野 遠 - 小説投稿エブリスタ

 長編小説を書いたのは、わたしは初めてでした。その時に感じたことや反省点を備忘録に書き留めておきます。

 

1. 書類規定

  • 文字数と枚数は違う。友人に途中で見てもらって指摘され、わたしは初めて気付きました。あったりまえや〜ん、という感じですね、、 改行の頻度や会話の量にも依るでしょうが、わたしの場合は1枚分当たりの文字数は、全て文字で埋め尽くした場合の約7割でした。言い換えると、その逆数で、枚数ベースだと文字数の1.4倍強に膨らんでしまうことになります。友人からその点を指摘されるまで、わたしはずっと文字数だけ意識して書いていたので、そのまま提出したら規定枚数上限を大幅超過してしまい、その時点でアウトになるところでした。
  • 注意しないとすぐ枚数をオーバーしてしまう。内容次第だけど、少し丁寧に描写するとあっという間に何枚分も費やしてしまう。特にアクションシーンは注意。アクションはたいてい、スローモーション的に、時間を微分して逐一描写することになるので、話の進展の割に枚数を多く使うことになります。見せ場でもあるので、省略したくないところだけど……。1.通常進行の地の分は時間経過が早く進み、2.会話部分はリアルタイム進行、3.アクションシーンはスローモーション(反比例して枚数は加速する)、4.ポエムっぽい謎の部分は時間が止まる、という感じでしょうか。
  • 梗概や登場人物紹介、作者情報も枚数にカウントし、通し番号を振るべき? これは正解を知りませんが、他の投稿した人は表紙つけて綴じて、すべてを一元的に管理していて、親切設計だなと感心しました(わたしは提出時には本文とは別カウントと思っていました)。たぶん内容優先でそんなに厳格な決まりは無いと思いますが。

 

2. 感情

  • 設定よりもエモさが重要。書き出す前のわたしは、こういうアクションシーンを書こう、こういうトリックを使おう、くらいしか考えていませんでした。そして登場人物たちが何を思って、なぜ動くのかゲームの駒のようにしか考えていませんでした。しかし書いていると、登場人物たちと一緒に喜怒哀楽のジェットコースターを味わうことになりました。そして時々は自分で感動して泣きました。もしかしたらわたしが未熟なだけで、読者の受け止め方は作者とは別なのだから冷静にコントロールするべきなのかもしれないけど、こういう感情を生み出すために物語を作るんだな、と書いて初めて感得しました。
  • 全員の人生は書く余裕ないけど、重要な人物はたいていその人の人生の中で抱えた何か強い思いがあるだろうし、それは他人にとってはほとんど意味がない(から近くにいても気がつかない)ことでしょう。物語の中では事件が起きたり対立があったりするので、そうした登場人物たちの人生の一局面、しかしその人にとっては一番大切な感情がいくつもアカギレのように露出するでしょう。別の言い方をすれば、ストックとして積み上がっていた感情の負債が、フローとして動き出すというか。

 

3. 構成面

  • 物語内での主人公のゴールを、なるべく早いうちに読者に提示するべき。これは書き上げるまでそうは思っていませんでした。展開がおもしろかったらそれで良いでしょ、くらいに考えていました。しかし作者はこの先の展開をだいたい知っているけれども、読者は知らないという非対称性があります。なので読者にとってのストレスを理解しづいです。そして、わたしはアクションシーンやスリルのある要素を思いついたものを前半にほぼ全部突っ込んだので「なんかいろいろイベントが起きるけどいったいこの物語はどこに向かっているのか?」が、読者にはなかなか見えなかったと思います。(大河小説などは時代の移り変わりがポイントだし、主人公の交代もありうるから、ゴール設定は無くてもいいかもしれませんが)
  • わたしの今回の場合、そもそも(主人公にとっての)物語内ゴールを考えていなかった。これは物語の目指すものによって正解は違うと思いますが、いろんなイベントをこなしたり出会いがあって、浮き沈みがある、そんな若者のエネルギッシュな躍動感を描ければと思っていました。しかしそれは(一般的なコンサートの)音楽で言ったら演奏方法であって、楽譜は別にあったほうがいいでしょう。またはマラソンに例えたら、選手が一生懸命走っている場面を見るのは確かに良いものだけど、しかしゴール地点が不明でどこに向かっているのか、またはどこまで行ったら終りがあるのか分からなかったら長くは見ていられないでしょう。読者からしたら、ゴールが提示されなかったら、ランニングマシンの上で走っている選手をずっと見させられるようなものだと思います。
  • イベントを盛り込みすぎた。先述の「アクションシーンは枚数を使ってしまう割に話が進まない」こともあり、佳境に差し掛かるころにはもう規定枚数上限に達してしまっていました。あとで3分の2に削ることに。
  • シナリオのハウツー本『Save the catの法則』という本に、ログライン log line という用語が紹介されていました。その映画がおもしろそうだと興味を持ってもらうために、どんな作品かを1文あるいは2文くらいで表す物です。ログラインの形で作品を紹介できなかったり、あるいはやたらと抽象的な言葉で飾るようなら、自分の作品のどこがコアなのか練り上げられていなかったということだと思います。
  • 考えてみれば、わたしは作品内に自分がおもしろいと思う要素をたくさん入れましたが、それらは今まで見た映画や小説のおもしろい部分を寄せ集めただけなのかもしれません。もちろん先行作品をそのまま真似したわけではないけれども、無意識的に。自分ならではのオリジナリティがある部分はそこではないでしょう。極論を言えば、表面的におもしろい部分は過去作品の影響であって、理想論としては、ログラインで言うべきは「これは自分にしか思いつかない、書けない」と言える部分なんだと思います。そこに気付いて自分ならではの部分を起点に再構成したら、また違う作品に生まれ変わるのかもしれません。

4. キャラクター

  • 名前は音でも差別化すること。これは友人に言われて驚いたのですが、名前を覚えづらかったとのこと。名付け親である作者には可愛い子なので区別がつきますが、キャラクターたちの中で似たような発音の名前の人がいると混同してしまう。字面でも音でもかぶらない方がいいでしょう。
  • 外見の描写は重要。見た目が何割、と言いますが、小説のキャラクターもそうなんでしょう。作者にとってはキャラクターたちの名前、喋り方や経歴、目的、物語内での役割で十分個性を感じていますが、読者にとってはラジオで紹介されただけで人となりを思い浮かべろと言っているようなもの。下手するとピンクとか青とかの髪の毛の色の違いが一番キャラクターの違いを覚えてもらえるのかも。それは半分冗談ですが、読者からしたら初対面の人が短期間で何人も出てくるので、経歴はあとで覚えるから、まずは顔と名前を覚えるための識別用の特徴だけ教えて、というものかもしれません。
  • さらに言うなら、ハリウッド映画や漫画やアニメのように美男美女であること。これも友人からそういうプレッシャーがありました。そうでないと読む気にならないと。そういう風潮には疑問もあるし、別に理由もなく美男美女ばかり出てくるのは確率的におかしいだろうと違和感もありますが、知らない漫画やアニメを試しに買ってみる時に、自分が表紙の顔で選んでいないと言ったら嘘になります。話のおもしろさと関係なくても、とりあえず美男美女が出てくる漫画は、ページをめくって読み進めるのが持続します。とはいえ「美しい」とか「整った顔立ち」とか「二重まぶたもぱっちりの大きな眼」とかの形容はやはり使うと恥ずかしいので、バリエーションを作り折り合いをつけたいところです。
  • キャラクターは勝手に動くか? これについては小説を書いていておもしろい経験をしました。感覚としては、映画に例えると、脚本は作者が書くが、キャラクターたちが撮影現場では自分の解釈で演技をしたり、アドリブを入れてくる、というものです。感覚としては、職人的な俳優の人たちがいて、彼らがそれぞれの役を演じる、という感じです。完全に監督=作者のコントロールを離れて勝手に動くわけではないけれども、言い回しに少しニュアンスを付けたり、セリフを言う際に何か芝居を入れるなど、キャラクターはその場で芝居をするな、とわたしは感じました。もちろん実際はわたしがすべて書いているんですが。この場面は書くの大変だな、というシーンも、大まかな流れだけ決めて後はキャラクターを演じる俳優たちのアドリブに任せて撮影現場に入ると、たいてい何とかなりました。それは気が楽だったし、ここでは彼らはどういう芝居をするのかな、と思いながら撮影=執筆するのは楽しかったです。特にヒロイン役はアドリブがすごくて、時々「そんなことをされると展開が変わってしまうから」と冷や冷やさせられました。

 

5. 参考資料

  • わたしは今まで歴史にはほとんど興味なく、知識も本もほとんど持っていませんでしたが、今作のためにヘレニズム時代や古代ギリシア古代エジプト、古代文字に関する本を何冊か買いました。それらの本を買う時の楽しさと言ったら! いままで興味なかったジャンルの本が、この小説のためだけに急に必要、あるいは超役に立つアイテムとして急に視界に入ってきます。「小説の資料のために買うんだ」と思いながら本を買うのは、なぜかゾクゾクする行為でした。「必要なんだ、これは!」と消費行為を正当化する高揚感なのか。
  • 今作では書物が重要なモティーフなこともあり、コロナで本屋や図書館でいままでのようには簡単に本にアクセスできない状況に、不思議なものを感じました。物語世界にシンクロするというか。また、大量の本から探したり手に入れられる事は、当たり前じゃないんだな、とありがたみを感じました。
  • 今でもヘレニズム時代については、おもしろい時代だなと思います。舞台にしたエジプトのアレクサンドリアにも、いつかぜひ行きたいですね。もうプトレマイオス朝の遺構はほとんど残っていないと思いますが。自分にとっての聖地巡礼です。

 

 

2020年に観た映画メモ

T-34 レジェンド・オブ・ウォー (2019)

人生で何回会えるか分からない、最高の映画. これぞ映画. 粋とケレン味しかない.

ナチスドイツの収容所内で、チャイコフスキーの『白鳥の湖』に乗せて可憐に舞うソ連の戦車を観たことがありますか? 

ソ連 vs. ナチスドイツの戦車が月光の下、プライドだけを賭けてチェコスロバキアの古都で戦う様は、中世の騎士の決闘のよう.

 

キングダム・オブ・ヘブン (2005)

12世期後半のエルサレム王国. 地平の双方から馬を進めるイスラム教軍とキリスト教軍、砂漠の氷菓エルサレム王ボードゥアン4世とアイユーブ朝創始者サラディンの互いへのリスペクト、エルサレムに舞う花吹雪とはためくイスラムの旗…

リドリー・スコット監督は、構成美を感じさせる円熟の映像に、人のみっともなく恥ずかしい劣情のドラマをふんだんに練り込み、クライマックスにはその世界で最高の舞台でのラストバトルを仕掛けてこてこてのエンタメに落とし込み、そしていくつか「これが描きたかったんだな」という物語の必要性とはあまり関係ない印象的なシーンがあり、好きな監督です.

 

火の馬 (1965)

火の馬<HDリマスター> [DVD]

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  • 発売日: 2018/04/28
  • メディア: DVD
 

セルゲイ・パラジャーノフ監督作品初体験. 映画にたいする認識が変わるかというくらいの衝撃でした. 雪の中の村でのやたらと元気で楽しそうな民俗文化、暗がりに人が猥雑にひしめき合う村の小さい教会の中での喧嘩、山中の林を自在に飛び回るカメラとほとばしる光、ロミオとジュリエットのようなボーイ・ミーツ・ガールのわかりやすい物語、圧倒的な存在感の家と屋根、「〜ビーチェ」「〜ザーニャ」みたいに強い口調だけれども柔らかくモゴモゴいうようなスラブ系の詩の朗読、鮮烈な色があふれる画面、と何度も観たくなります.

他のパラジャーノフ作品は、画面構成はより整って絵画的な美しさですが、わたしはこの『火の馬』の野性的にカメラが暴れまくる撮り方が好きだな.

 

その他メモ

マザーレス・ブルックリン (2019)

 

劇場版SHIROBAKO 

劇場版SHIROBAKO 通常版 [DVD]

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  • 発売日: 2021/01/08
  • メディア: DVD
 

 

メイド・イン・アビス劇場版

 

1917 (2019)

1917 命をかけた伝令 [DVD]

1917 命をかけた伝令 [DVD]

  • 発売日: 2021/03/03
  • メディア: DVD
 

 

トリスタンとイゾルデ (1865初演、1983上演版)

ワーグナー:楽劇《トリスタンとイゾルデ》 [DVD]
 

(同2016年上演版)

https://www.metopera.org/season/on-demand/opera/?upc=811357018729

 

劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン

 

劇場版 Fate/Grand Order

 

ロングショット (2019)

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋[DVD]

ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋[DVD]

  • 発売日: 2020/06/03
  • メディア: DVD
 

コメディというには下品すぎた. 民主党派の政治的姿勢が、それ自体はいいんだけど、露骨すぎた(最後の方でも登場人物が自己反省をしているけど).

割と早いうちから2人がくっついてしまうので、あまりラブコメという感じでもなかった.

大麻か何かやってクラブでラリって踊ったあとで某国の独裁者と政治交渉やるところはおもしろかった. 

 

5時から7時までのクレオ (1962)

部屋で歌をいくつか試す場面の自由さがすごいなーと思ったら、ピアノを弾いているのはミシェル・ルグランその人なんですね. ミシェル・ルグランは昨年86歳で、またアニエス・ヴァルダ監督も昨年90歳で亡くなりました.

どこに行くのかわからない行き当たりばったりみたいな展開ですが、観終わったときになんとなく穏やかな感じになるラストでした. つまり主役と同じ体験をしたわけか.

 

レ・ミゼラブル (2019)

レ・ミゼラブル [DVD]

レ・ミゼラブル [DVD]

  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: DVD
 

フランスのマイノリティーのコミュニティもいろいろあるのがわかった. 主人公が配属されてパトカーで街を紹介するためにあちこち連れ回される入り方は、不穏感がありゾクゾクしました. 少年が警察の不祥事をドローンで撮影してしまう展開も今っぽくていいですね.

ラストの子供たちの話はちょっとファンタジックで戸惑いました.

 

PSYCHOPASS 3 First Inspector

建物の中で敵と味方でチェス(のコマ)のような駆け引き. あまり世界観や主要登場人物の個性が関係ないような. 敵がしょぼい.  味方チームが勝つけど、で?という感想.

 

ハリエット (2019)

ハリエット [DVD]

ハリエット [DVD]

  • 発売日: 2020/11/06
  • メディア: DVD
 

19世期のアメリカ、黒人奴隷を逃す秘密結社「地下鉄道(Underground Railroad)」の指導者の1人、ハリエット・タブマンの活躍を描く.

鬼畜な白人たちを相手に、絶望的な状況で逃げ続け、始終スリルがありました.

登場する黒人たちの衣装が決まっていて、見事なこと! ゴスペルの沸騰するようなバイブスに乗せてがんがん黒人を引き抜いて脱走させていく中段が良かったです。

主人公が予知能力を持っているところや、途中で仲間になるずる賢そうな少年があまりドラマとして活きなかったこと、ラストバトルはもう少し派手にやって欲しかった、などはフィクションとしてのエンタメとしてやや物足りませんでした. 

 

エジソンズ・ゲーム (2017)

エジソンズ・ゲーム [DVD]

エジソンズ・ゲーム [DVD]

  • 発売日: 2020/10/23
  • メディア: DVD
 

19世紀末、トーマス・エジソンウェスティングハウスニコラ・テスラなどの発明家が電流ビジネスの覇権を巡って争う. ちょっと狙いすぎな気もしましたが、映像が綺麗でした. 夜中に街の大通りに群衆が集まり、注視する中で電気照明を灯す場面は魔法のようで、このシーンを見るだけでも価値があるなと思いました. 

情熱的な発明家であり、またビジネスでは他人を押し除けるためにひどい手も使う、食えない人物であるエジソンをどう描くか、というのはドラマにするのは実在の人物だし、なかなか難しいものだったんだろうと思います. ウェスティングハウスを主人公にして、エジソンに挑むうちにだんだん成長していき、エジソンが抱える人間らしい一面に気づき分かり合う、という構成にしたら良かったのでは. 

ラスト、「電流戦争」では負けたエジソンが映画の可能性に気付いて夢中になるのが映画の中で描かれるのは、自己言及的な不思議な感覚でぐっときました.

 

イップ・マン 完結 (2019)

イップ・マン 完結 [DVD]

イップ・マン 完結 [DVD]

  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: DVD
 

シリーズ前作を見ずにいきなり完結編を観たのですが、完成度が高くて驚きました. もっとはやくこのシリーズを観ていれば良かった!

1970年前後のアメリカのチャイナタウンのレトロな色使い、かっこよく見せることに振り切ったカンフーバトル、ブルース・リーの完コピ再現、アパートの小さなテーブルでお茶をすするイップ・マン師、完璧とも思えるイップ・マン師も父としては未熟で息子の反抗期にはつい手をあげてしまう、そして遠くアメリカの公衆電話から電話をかけ続けるイップ・マン…

物語の展開も、前半の中華総会とブルース・リーを巡る葛藤は自然に対立と緊張感が生まれるのが自然でした. また、総会長の娘をイップ・マンが助けることでドラマが複雑化し、親子というテーマが現れてくるのも完璧な流れでした.

『昭和残侠伝』の高倉健のように、度重なるアメリカ軍人の東洋人への仕打ちと無理解に耐えに耐え、そしてついに立ち上がる… メリハリの効いたアクションと、ストイックな叙情をたたえたキャラ立ちやドラマが両立しており、脚本もすばらしいです.

ただ、ラスボスがやや唐突観あり、あれその人がラスボス?という感じだったので、ラスボスを圧倒的強さとして立てるのはもう少し伏線があって、因縁の対決にしても良かったと思いました.

 

悪人伝 (2019)

悪人伝 [DVD]

悪人伝 [DVD]

  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: DVD
 

サイコパスな殺人鬼を、ヤクザのボスと喧嘩っ早い警察官がタッグを組んで追い詰める.必要なときはめっちゃ攻撃的なのに、周囲の無理解にため息をつき続ける、意外とインテリで品の良さそうなヤクザのボス(マ・ドンソク)が水銀のように艶やかに魅せる悪のオーラを放つ.

もう説明の必要はないであろう、韓国映画のしたたるような美麗な映像とスピーディかつ繊細な編集技術. 体や車であたりのものを壊しまくり、振動音とガラス破片がスケルツォを果てしなく踊り続ける…

ターゲットとなるサイコパス青年は、ニーチェとか実存思想系の哲学書を読んでいた気がしますが、ただの痛い厨二みたいだったので変に説明つけなくていいかなと思いました. 

 

Fate/stay night

シリーズの以前作を見ていませんが、ラストバトルの高速三次元アクションは迫力がありました. 

 

TENET (2020)

よくわらかなかったけど、謎の映像が進行していって、何か整合性があるんだろうなと思って頭の限界まで使って興奮しました. 

舞台が世界のあちこちで国際スパイ作戦という感じで楽しかったですが、一番肝心な空港で飛行機がリアルに突っ込むシーンは、ごちゃごちゃ忙しくてあまりカタルシスがなかったかな. 金塊を捨てる意味がよくわかりませんでした.

 

鬼滅の刃 無限列車編 

漫画一巻読んで止まっていますが、映画を観ました. かなり残酷な場面があるのでびっくりしました. 「俺の家族がそんなことを言うはずがない、侮辱するな!」と主人公が敵のトリックを打破するシーンあたりから涙腺が壊れました. 煉獄さんのバトルは滂沱でしたね. 2時間ほど前にお会いしたばかりでしたが…

各アクションシーンはすごかったですが、2割くらい圧縮してもいいかと思いました. 

作品に対してわたしが感じたのは、独特の強い倫理観でした. それはどちらかというと弱くて根拠に乏しい、負けるものな気がします (実際力では負けた). 煉獄さんが守っているルールである、自分が強いなら弱い人たちを助けるべし、というのも必然性があるわけではないし、前任である父から受け継いだわけではありません(父は戦線離脱している). 母親がそう言って抱いてくれたという以上のものではないんだろうし、それだけで映画の中で鬼と死闘をして引かなかったんでしょう.

しかしそうした倫理は、ただの感情とか、感じるだけというものではなく、何かロジックがあるようにも思います. それは作中でのちょっとした登場人物たちの動きや反応、セリフや表情に時々表れているのかもしれない、と思いました.

 

他にもDVDでいろいろ観たけど思い出したら.

映画: 악녀 悪女 (2017)

 

悪女/AKUJO [DVD]

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  • 発売日: 2018/06/22
  • メディア: DVD
 

정병길 Jeong Byeong-gil チョン・ビョンギル監督

김옥빈 Kim Ok-vin キム・オクビン主演

特殊機関で鍛えられた女性が復讐のために単身犯罪組織と戦う、スタイリッシュなアクション映画。123分。

https://spice.eplus.jp/articles/170863

 

主人公視点でのゲームのような長回しアクションシーンに、どうやって撮影したんだろうといわたしは驚嘆しました。そういえば同じ2017年にはシャーリーズ・セロン主演、デヴィッド・リーチ監督の冷戦末期ベルリンを舞台にした作品がありましたが、あれもクライマックスの長回しアクションが忘れられません。

アトミック・ブロンド スペシャル・プライス [DVD]
 

 

長回しが一番活きたのはクライマックスだとわたしは思います。一度終ったかと思ったら、諦めず、そこから徐々にテンションを上げて行って、フルスロットルでぶっとばすまで行くところは、思わず声が出ました。普通諦めるところで、普通じゃない方法で追い上げる時に、なぜか完全に主人公のパッションにわたしはシンクロしました。主人公は一言も言葉を発さないのに。なぜだろう? あと一歩で目の前で逃げていく敵に悔しさを味合わされたからかもしれない。しかしそれだけでなく、スピードがいったん止まってから再び加速するまで長回しで続いているということも重要な気がします。

 

物語の展開では次のことにわたしは気づきました。冒頭のアクションと修行的なミッションを経て、重要登場人物が幸せな生活に落ち着くセットアップが完了し、しかしそこに不吉な兆候が現れて悲劇に転じるタイミングが、ちょうど半分くらいのところでした。これはたまたま先日観た映画『オーシャンズ11』(2001)でも同様でした。

わたしが今年書いた初めての長編小説では、危機に転じるタイミングが後半4分の1くらいだったので最後が駆け足な感じになり、物語の目的が何なのか分かりづらいかったんだろうなと、そのことから反省しました。

(投稿結果) 日本ファンタジーノベル大賞2020

 

映画: 劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン (2020)

こんなに感動した映画は『メッセージ』(Arrival, 2016. 日本公開2017) 以来です。観た後、わたしはしばらく茫然としました。


手紙によって言えなかったことを言いたい人に素直に言える、という基本要素で3つのドラマが重なります。

  1. 1つ目は狂言回し的な役割で、主人公のヴァイオレットよりのちの時代の女の子の話。
  2. 2つ目はメインの、ヴァイオレット自身の話。
  3. 3つ目は病院で寝たきりの少年の話。(2つ目と3つ目はクライマックスがタイミング的に重なるだけで、2つ目をよりピンチにして盛り上げる役割だった気もしますが、もうそんなことはいい)


2つ目、3つ目の話は、19世紀末ころのヨーロッパ風の町が舞台。エッフェル塔みたいな塔からするとフランスか、ライデンという都市名からするとオランダを思わせる架空の町が密度の濃い美しい美術と叙情的なオーケストラで描かれます。街灯やランプに浮かび上がる、細部まで書き込まれた町にもかかわらず、必要な人物以外とエピソード以外は出てこない、まったく無駄のないミニマリズムのような物語展開。それは最初、いったいここはどこだろう、と不思議な感じでしたが、気がつくと感情描写、表情、セリフ、潤む目、嵐の前の早く流れる灰色の雲、完璧に結われたヴァイオレットの髪の表面の影などに心を揺さぶられっぱなしになりました。京都アニメーション・テクニック。


嵐の中でヴァイオレットがつまずき、ぬかるみと黒く濁った雲の間で呆然とする場面は、特にきれいでした。なんで絶望的で泥だらけの場面があんなに美しいんだろう?


あと月光に照らされた海の場面。やや長いですが、あいつに動いてもらうにはそれくらい時間がかかったんでしょう。波が輝いていました。


2つとも、これまで「自動手記人形」として心を止めたまま生きてきた主人公が、言葉をなくすほど衝動的になった場面。嵐や波打ち際の映像が、ヴァイオレットの替わりに雄弁に語ります。京都アニメーション・クオリティ。


それにしても、全編を通じて、これほど死の気配が濃厚な作品も珍しいのではないでしょうか。病院の少年の強気で達観したような言動、崖から海に向かって戦死者を追悼する儀式の、花輪の滞空時間。エンドロールに入る前の、少し長い暗がりの時間。

 

死については、作品内で2つの葛藤があるような気がしました。

《A》まず、物語の前景となる1つ目の現代に近い時代の話と、3つ目の病院の少年の話に描かれる、死んでから届く手紙というモチーフが反復されます。死んでからの手紙の方が、間接的ではあるけれども本当の気持ちが伝わる。

《B》その一方で、3つの話すべてに共通して、生きているうちに話さなければ(代筆業を脅かす電話を使ってでも)、というもう一つのテーマが首をもたげてきます。

 

これら2つは、初めは矛盾しているようにわたしは感じました。死んでも/死んだあとだからこそ本当の気持ちが手紙によって届くのか、それとも生きているうちに伝えなければ、自分や相手が死んでからでは手遅れで無意味になってしまうのか?


1つ目の、現代の親に反発する女の子は、まさにその矛盾を抱えています。そして、旅に出て2つ目の話であるヴァイオレットのことを知ったことで変わります。彼女の時代にはもう、ヴァイオレットは死んでいるのだろうけど。それはこの映画を観た観客に起きたことでもあるでしょう。京都アニメーション・マジック。